【死後事務委任契約】

一人暮らしの高齢の方でしたが、自分の死後の事務について、相続人や親族に迷惑をかけたくない、疎遠であるので、第三者に依頼しておきたい、自分の意思がきちんと反映されるよう法的に準備しておきたい、とお考えでした。

遺言を作成しておくことで対応できますか?

遺言に死後事務の内容を記載し、遺言執行者を指定することも考えられますが、遺言執行者に指定された者には就任するかしないかの自由があり、また、通常、死後事務の内容は法定遺言事項には該当しないため、法的な強制力がありません。

確実に自分の意思を実現したい場合、死後事務委任契約を締結しておく必要があります。契約ですから、法的拘束力があります。

死後事務委任契約の有効性については、以下のとおりです。

民法では、委任契約の委任者が死亡した場合、委任契約は終了するとされています(民法653条1号)が、この規定は任意規定であるところ、『・・・自己の死後の事務を含めた法律行為等の委任契約が・・・当然に、委任者の死亡によっても右契約を終了させない旨の合意を包含する趣旨・・・民法653条の法意がかかる合意の効力を否定するものでないことは疑いを容れないところである。』(最高裁平成4年9月22日判決)。

 また、死後事務契約を締結しても、実際に委任者が死亡し、その地位を相続した相続人が死後事務委任契約を解除してしまうことも考えられます。

この点、東京高裁平成21年12月21日判決は、『・・・委任者の死亡後における事務処理を依頼する旨の委任契約においては、委任者は、自己の死亡後に契約に従って事務が履行がされることを想定して契約を締結しているのであるから、その契約内容が不明確又は実現困難であったり、委任者の地位を承継した者にとって履行負担が加重であるなど契約を履行させることが不合理と認められる特段の事情がない限り、委任者の地位の承継者が委任契約を解除して終了させることを許さない合意をも包含する趣旨と解することが相当である。』と。

死後事務委任契約の内容は、例えば、死亡届の提出、葬儀・火葬・納骨・法要等に関する事務、医療費・施設費用等の支払い、年金・健康保険機構への届出、公共料金、インターネット接続サービスの解約、各種アカウントなどの削除・解約、デバイス上のデータの消去、家財道具の処分などです。

これらのうち、死亡届は、死後の事務手続の始めに位置します。

届出と提出は概念が異なります。死亡届の届出人については、法律上(戸籍法第86条、87条)一定の人に限定されています。死後事務委任契約の受任者が、この一定の人に該当しなければ、死亡届けを届けられません。

なお、令和2年施行の「戸籍法の一部を改正する法律」において、死亡届の届出人となれる者に「任意後見受任者」が追加されました。

また、最近ではデジタル遺品と言われるものに関して、相続手続の方法が分からない等の問題もあります。

クラウド上にあるメールはどうなるの?ウェブ上の投稿は?パソコンのパスワードは?

生前に自分で準備しておくとよいことがありそうです。以上