【遺産分割前における預貯金の払戻しの制度】民法909条の2

父の収入で生活してきた母は、父が亡くなると当面の間、生活費に困るのではないかと心配です。金融機関は顧客の相続開始を知ると、その口座を凍結すると聞くからです。

何か対策しておく方がいいのでしょうか。

以前の裁判所の考えは、預金等の金銭債権は相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるというもので、相続人全員の合意がないと、遺産分割の対象にはならないと構成されていました。なんとも一般人の感覚では理解しがたい理屈でした。

例えば、不動産等の高額な生前贈与を受け、特別受益が認められるにも関わらず、預貯金債権を分割対象にする同意をしない場合、その者の法定相続分での預貯金取得が可能になる一方で、他の相続人らとの実質的公平が図られないこと不都合を招いていました。

ようやく平成28年、最高裁決定で、「共同相続された普通預金債権・・・は、・・・相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象になるものと解するのが相当」と判示し、判例を変更しました。しかし、今度は、上記のような、実際上の生活における支障が出てきます。

つまり、遺産分割協議成立までの間、権利行使ができない、生活費もおろせないということになってしまいます。

そこで、令和元年7月からは、民法909条の2で、遺産分割前に、裁判所の判断を経ることなく、一定の範囲で遺産に含まれる預貯金債権を単独でも行使できる、引き出せることになりました。

引き出し可能な限度は、相続開始時の債権額の3分の1に、その者の法定相続分を乗じた額であって、各金融機関150万円までです。

でも実際には、口座が凍結されていなければ、少なくともカードでの引き出しは可能な場合もありますね。以上