【相続人廃除の制度~親子の場合】

 高齢になった一人暮らしの親を、子(推定相続人の一人)が自分の近隣のアパートに住まわせ、その預貯金を整理・管理すると言って、通帳を預けさせていたところ、ATMで頻繁に出金され、合計で数千万円に上っていたことが判明した。

その親御さんは、そのままにしてきた自宅不動産に戻り、不正に引き出された預金の取戻しを考えていました。訴訟まではどうも気持ちが進まない様子。そこで、まず、相続人廃除の制度を説明しました。

推定相続人の廃除は、被相続人の意思によって、遺留分を有する推定相続人の相続権をはく奪する制度です(民法892条)。

廃除事由は、『被相続人に対する虐待または重大な侮辱、その他の著しい非行』とされており、被相続人との人的信頼関係を破壊し、推定相続人の遺留分を否定することが正当であると評価できる程度に重大なものと解釈されています。

親子関係はうまくいかないことの方が多く、年月の経過で自然と収まっていくこともまた多いものです。しかし、人的信頼関係を破壊するとはどの程度のものでしょうか。

お金の問題にまつわる廃除の審判例を見ても、その背景には大変なエピソードがあったのだろうと改めて思わせます。

・和歌山家裁平成16年11月30日審判例『・・・申立人の預金約3582万円を無断で払戻しを受けたこと、申立人に暴力をふるうようになったことなど』の事情により廃除を認めたもの。

・神戸家裁伊丹支部平成20年2月28日の審判例『・・借金を重ね、被相続人に200万円以上を返済させたり、相手方(長男)の債権者が被相続人宅に押し掛けるといった事態により、被相続人を約20年間にわたり経済的・精神的に苦しめてきた相手方(長男)の行為は、・・・民法892条の「著しい非行」に該当する』として廃除を認めたもの。

本件のご相談では、その他の事情も多くあり、廃除事由に該当するのではないかと考えていましたが、廃除の事実が戸籍に記載されること、代襲相続ができることを考慮し、廃除申立は希望されませんでした。

そこで、その子に対する債務(返済義務)を免除する条項を入れ、公正証書遺言を作成することになりました。

代襲相続がされるとなると、廃除した実益はあまりありません。一方で廃除した事実が戸籍に反映されます。

ここが、親子の場合、相続人の廃除があまり利用されない制度になっているように思います。夫婦であれば離婚という方法もありますが、親子はどこまでも親子です。

                                以上