【相続人の廃除制度~夫婦の場合】

離婚が成立すれば、配偶者は推定相続人ではなくなります。

ですので、夫婦関係にある推定相続人の場合には、離婚原因である「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)と同程度の非行が必要であると解されています。

財産を残したくない、というとまずは離婚を考えます。しかし、諸々の事情でまだ離婚はできないということもあります。

以下は、最高裁令和3年3月25日判決(中小企業退職金共済法第14条1項1号の配偶者の争点)の中で、事実上の離婚状態にある妻の夫に対する推定相続人を廃除する危急時遺言に基づき、家裁が廃除の審判をしたことが認定されたものです。

『夫婦間には子が一人、婚姻後数年で他の女性と生活し、別居後に妻と面会したのは数回、婚姻費用をほとんど分担しなかった、被相続人は子の就職等の支障を懸念して、離婚の意思はあったものの、夫から求められた協議離婚の届け出をしなかった。数年後に病気が悪化して離婚をしないまま死亡前日に、危急時遺言の方式によって、相続人から夫を廃除していたところ、廃除の審判がなされた事例。』

『婚姻関係は実体を失って形骸化し、かつその状態が固定化して近い将来解消される見込みがなく、事実上の離婚状態にあった』とされました。

婚姻関係における夫の有責性は明白であって、長年にわたる夫の行状は著しい非行に該当するということなのでしょう。