【相続債務と不動産の仮差押~永遠の時効中断効】

独身であった兄が亡くなり、郵便物を見ると債務が多くあるようです。相続人は弟の私一人。

いくつかある兄名義の不動産には先祖から受け継いだものもあり、私は相続放棄をせずに相続することにしました。

他の不動産を売却し相続債務の返済に充てようと考えていたところ、土地の一つに、古い日付で仮差押の登記が付いていました。時効なのではないでしょうか。

債務者に対し10年間、権利を行使しなければ、その債権は時効によって消滅しますので、債権者としては時効を止めるため、保全処分として仮差押をする場合があります。

これは、時効中断事由の一つです。時効期間が振出しに戻るものです。

この仮差押の時効中断の効果について、20年程前、びっくりする裁判所の判断がありました。

最判平成10年11月24日は、「仮差押えによる時効中断の効力は、仮差押えの執行保全の効力が存続する間は継続すると解するのが相当である。」「債務者は、本案の起訴命令や事情変更による仮差押命令の取消しを求めることができるのであって、債務者にとって酷な結果になるともいえないから。」としました。また、「仮差押えの被保全債権につき本案の勝訴判決が確定したとしても、仮差押えによる時効中断の効力がこれに吸収されて消滅するものとは解し得ない。」ともしました。

債務者の不動産に対して仮差押えの登記がなされている限り、債権は時効消滅することがないということです。

この判断から約20年が経過し、平成29年改正民法第149条は、仮差押え・仮処分について、これまで認められた時効中断の効力が否定され、時効の完成猶予の効力(その事由が終了した時から6か月を経過するまでの間は、時効は完成しない。)しか認められなくなりました。

上記判決は、改正前の仮差押えの時効中断の効力についての判断であり、改正後の時効の完成猶予の効力についてはどのような判断がなされるかわかりませんが、変更になる可能性があると思います。

ただし、施行日(令和2年4月1日)より前の仮差押え・仮処分には、改正前の民法が適用されます。

実際は、サービサー等に債権譲渡されているでしょうから、本件においても、その相手と協議し、和解条項の中に、元の債権者(債権の譲渡人)に仮差押を取り下げさせるよう約束させるとの交渉することになりますね。