【遺言の執行~不動産登記の場合】

父が亡くなり、その相続人は長男と次男の2人です。遺産には預貯金と自宅不動産があり、「遺産の全てを長男に相続させる」旨の遺言がありました。

長男が遺言に基づき不動産の移転登記をする前に、次男に金を貸していた債権者が次男に代わって相続登記を行い(債権者代位権)、次男の持分2分の1を差し押えました。

登記未了の長男は先に登記を得た債権者に対し、所有権を主張して登記の抹消を請求できるでしょうか。

改正以前は、相続させる旨の遺言による権利の取得は、登記なくして第三者に対抗できると判断されていましたが(最二小判平成14年6月10日)、平成30年の相続法改正で、対抗要件主義が強化され、結論が異なることになります。

民法第899条の2第1項は、「相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分(法定相続分のこと)を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない」と。

法定相続分を超える権利の取得は、登記などの対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができないことになります。

相続させる旨の遺言による権利取得も遺贈による権利取得も、相続開始と同時に被相続人から直接、特定相続人あるいは受贈者へ権利が移転します。

改正以前は、相続させる旨の遺言の方は、受益相続人以外の相続人は無権利者であり、無権利者からの譲受人である第三者に対して、受益相続人は権利主張ができる、しかし、遺贈の方は、受贈者は登記を優先しなければ権利主張できないとして、異なる処理がされてきました。

しかし、相続関係の実情を知らない第三者に不測の損害を与えるとして、相続させる旨の遺言の場合も、登記で決することに改正されました。

 改正以前の処理だと、相続させる旨の遺言の受益相続人は、登記しなくても権利の主張ができ、なかなか登記の必要に迫られません。そうすると不動産登記に対する信用が害されます。

今後は、相続させる旨の遺言があるからと安心せず、その執行として速やかに登記まで完了させておく必要があります。 

令和元年7月1日以後の相続開始に適用されます。

本件の相続開始がこの施行日以後であれば、長男は不動産全部につき所有権を主張できない結果(抹消登記の請求はできない)、不動産は債権者と共有になります。もっとも、弟の債務を支払って登記の抹消をするでしょう。後は、弟に対する求償です。