父が亡くなり、1年も経って、裁判所から「検認の通知」が届きました。
父と同居していた妹に、このことを伝えたところ、「お父さんは10年前に遺言書を作っていて、私が預かっていた。検認期日に出ればわかることだけど、私(妹)に全て相続させる、という内容だよ。」と言われました。
10年も遺言書を預かっていて、相続人となる私に隠していたなんて許せません。しかも、私には遺産が何もないなんて。。。
妹の行為は、「遺言書の隠匿」に当たるのではありませんか?
遺言書を隠匿した相続人は、相続する権利がなくなります(相続欠格、民法891条5号)。どのような場合でしょうか。
まず、遺言者の生前に、遺言書を保管していたとしても、『遺言書の隠匿』には当たりません。たとえ内容を知っていたとしてもです。
自筆証書の場合、「検認の手続き」を経なければ、登記や預貯金を勝手にできません。保管していた人であれば、通常は検認の申立てをします。検認申立までに時間がかかった場合に、「何かある?」と疑いたくなるのでしょうね。
同条5号の趣旨は遺言に関し著しく不当な干渉行為をした相続人に対して相続人となる資格を失わせるという民事上の制裁を課するもので、非常に厳しい制裁です。
この効果に相応する程のかなりの悪だくみを画策した人ということでしょう。
この点、判例は、自己に有利な遺言書を破棄又は隠匿した相続人について、相続に関して不当な利益を得ることを目的とするものでなかったときは、相続欠格者にはあたらないものと判断しています。
例えば、死後約10年を経過するまで検認の手続をしなかった場合でも、相続欠格者にあたらないとした裁判例がある一方で、相続開始後検認まで2年しか経過していなくても、利益を確保しようと画策(他の相続人に相続放棄をさせようとしたり、遺留分請求の行使期限10年を過ぎても隠匿したまま等)した場合、相続欠格者とされた事例もあります。いずれも自己に有利な内容の遺言書の場合です。
この種の争いが起こる場合、自己に有利な遺言書なら、なぜ隠しておくのかと普通に疑問です。しかし、遺言能力に問題がありそうな場合であって、自己に有利な遺言書作成に関与している場合など、検認申立をしないで、遺言能力に関する証拠の収集が難しくなる状態まで時間が経過するなど、「遺言書隠匿だ!」という感情が湧いてくるのかもしれません。